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最高裁判所大法廷 昭和37年(あ)502号 判決 1963年4月17日

判   決

国鉄臨時職員

菊地正

右の者に対する業務上過失致死、道路交通法違反被告事件について、昭和三七年一月二九日仙台高等裁判所が言い渡した判決に対し、検察官から上告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原判決を破棄する。

被告人を禁錮一〇月に処する。

第一審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

仙台高等検察庁検事長橋本乾三の上告趣意について。

原判決は、本件公訴事実中、「被告人が自動車を運転して公訴事実第一のとおり交通事故を起したにもかかわらず、右交通事故発生の日時、場所等法令に定められた事項を警察官に報告しなかつた。」との点について、該公訴事実の存在することを認定しながら、道路交通法七二条一項後段の報告義務は、同条項前段の救護等の義務に対し、単に補充的意義を有するに過ぎず、両者は別個独自の義務として互いに並立するものではないとし、本件のようないわゆる「ひき逃げ」の場合には、救護等の義務違反の罪のみが成立し、報告義務違反の罪は成立しないとして、この点につき無罪の言渡をしたこと、及び同判決が、いわゆる「ひき逃げ」の場合に、右両義務の違反が成立するとした論旨引用の高松高等裁判所の判例と相反する判断をしたものであることは、所論のとおりである。

よつて、審案するに、道路交通法は、道路における危険の防止と交通の安全、円滑を図ることを目的とするものであり、右目的達成のため、同法七二条は、その一項前段において、車両等の交通による人の死傷又は物の損壊の交通事故のあつたときの措置として、「当該車両等の運転者その他の乗務員は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。」と規定し、その後段において、「この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。)は・・警察官・・・・に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。」と規定している。右規定の趣旨を前記道路交通法の目的に照らして考えると、同条項前段は、交通事故があつた場合、事故発生に関係ある運転者等に対し、先ず応急の処置として救護等の措置を執るべきことを命じ、その後段は、この場合、すなわち、右前段にいう交通事故があつた場合において、人身の保護と交通の取締の責務を負う警察官をして、負傷者に対する万全の救護と交通秩序の回復に即時適切な処置を執らしめんがため、運転者等に右のような報告義務を課したものであつて、両者は、その窮極の目的を一にしながらも、その義務の内容を異にし、運転者等に対し各別個独立の義務を定めたものと解するのを相当とする。これがため、各義務違反に対する罰条も、前者に対しては同法一一七条、後者に対しては同法一一九条一項一〇号と各別に規定しているのであつて、要するに、交通事故があつたときは、前記運転者等は、救護等の措置と報告の措置の双方について、これが履行を義務づけられ、前者の義務を履行したからといつて、後者の義務を免れないのは勿論、前者の義務の履行を怠つた場合においても、後者の義務を免れず、これを怠るときは当然報告義務違反の罪が成立し、これと救護等の義務違反の罪とは併合罪の関係に立つものと解すべきである。

されば、右と同趣旨に出でた所論引用の高松高等裁判所の判例は正当として支持さるべきで、論旨は理由があり、原判決は、刑訴四〇五条三号、四一〇条一項本文により破棄を免れない。

よつて、同四一三条但書により被告事件につきさらに判決をすることとする。

原判決の確定した事実に法律を適用すると、被告人の判示所為中、無免許運転の点は、道路交通法六四条、一一八条一項一号、罰金等臨時措置法二条に、業務上過失致死の点は、刑法二一一条前段、罰金等臨時措置法二条、三条に、救護等の義務違反の点は、道路交通法七二条一項前段、一一七条、罰金等臨時措置法二条に、報告義務違反の点は道路交通法七二条一項後段、一一九条一項一〇号、罰金等臨時措置法二条に該当するところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、業務上過失致死罪については所定刑中禁錮刑を、その余の罪については所定刑中いずれも懲役刑を選択し、同法四七条本文、一〇条により最も重い業務上過失致死罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で被告人を主文第二項の刑に処し、訴訟費用の負担につき、刑訴一八一条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官全員一致の意見によるものである。

検察官村上朝一公判出席

昭和三八年四月一七日

最高裁判所大法廷

裁判長裁判官 横 田 喜三郎

裁判官 河 村 又 介

裁判官 入 江 俊 郎

裁判官 池 田   克

裁判官 垂 水 克 己

裁判官 河 村 大 助

裁判官 下飯坂 潤 夫

裁判官 奥 野 健 一

裁判官 石 坂 修 一

裁判官 山 田 作之助

裁判官 五鬼上 堅 磐

裁判官 横 田 正 俊

裁判官 斎 藤 朔 郎

裁判官 草 鹿 浅之介

検察官橋本乾三の上告趣意

原判決は、その主文において、「本件公訴事実中第二の後段の報告義務違反の点につき、被告人は無罪、」と言渡しているが、右は

(一) 道路交通法第七二条第一項に関する昭和三六年一二月六日高松高等裁判所第三部の判例(昭和三六年(う)第二八五号)並びに

(二) 道路交通取締法第二四条第一項、同法施行令第六七条に関する昭和三四年一一月二五日大阪高等裁判所第一刑事部(昭和三四年(う)第九一一号)及び、昭和三五年一一月一四日同高等裁判所第五刑事部(昭和三五年(う)第一二五一号)の各判例と相反する判断をした非違があり、右は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、破棄すべきものと思料する。

すなわち、本件被告人菊地正に対する業務上過失致死、道路交通法違反被告事件の公訴事実に示された訴因は、第一無免許運転、第二業務上過失致死、第三救護等の義務違反、及び第四報告の義務違反の四個であり、第一審判決も右四個の訴因を認定したのに対し、被告人から控訴の申立があり、これに対し、原判決は、右第三(救護等の義務違反)の訴因たる事実と第四(報告の義務違反)の訴因たる事実とについて、孰れもこれらの事実はこれを認定しながら、右第三(救護等の義務違反)の訴因につき罪責を問う以上第四(報告の義務違反)の訴因の罪責を問うことはできないとして無罪の言渡をした点は、前掲高等裁判所の各判例と相反する判断をしたものである。以下にその理由を説明する。

一、原判決は、本件公訴事実中の第二、に関し、「道路交通法七二条は、要するに文通事故が発生した場合において、当該車両の運転者等に、時を移さず被害者の救護および交通秩序の回復等緊急を要する応急措置をとることを定めた規定であつて、同条一項前段においてまず基本的なその救護等の義務を規定し、右規定に従つて運転者等が自身で講じた救護等の措置だけでは不十分な点もあるであろうことを考慮に入れ、同項後段において当該車両の運転者等に対し、事故の内容、救護等の措置の概要を直ちに警察官に報告しなければならないことを規定し、一方報告を受けた警察官は、同条二項、三項によつて現場に臨み、さらに運転者に対し救護等必要な措置を指示することができることとして交通事故の被害者の救護、または道路における危険防止、その他交通の安全を図るため万遺漏なきを期しているのである。この観点からすれば、道路交通法七二条一項前段の救護等の義務も、同項後段の報告義務も共に立法の趣旨、目的を同じくするものであつて、決して同条項において独自の異つた並列的な義務を規定したものではない。そして交通事故があつた際には何よりもまず被害者の救護等の措置を講ずることが急務であり、これを行うことが又常識であるから警察官に対する報告義務を規定した道路交通法七二条一項後段でも右報告義務は前段の救護等の措置を尽した通常の場合を予定して、『この場合において』発生するもの、すなわち救護等の義務を先行させ、警察官に対する報告義務を後順位にしているが、この順序は必らずしも絶対的なものではなく、事故の内容如何によつて、まず警察官に報告し、その指示によつて救護等の措置を講じた方がむしろ適当な場合が少くないであろう。両者のいずれをまず為すべきかは事故の内容、状況によつて合理的に判断して決すればよいことで必ずしも常に救護等の措置が先行すべきものと解する必要はないのであるが、いずれにしても、運転者等に必要にして十分な救護等の措置をとらせることが主眼で、ただそのためには警察官が介入して適宜指示を与える必要があるとの見地から補充的に前記報告義務を定めたものと解すべきである。救護等の義務と報告義務を規定した右法条を以上の如く解するならば、いわゆる『ひき逃げ』の場合において、当該車両の運転者等が自身で本来の目的に添う救護等の措置を講じなかつた点の罪責を問う以上、これと同じ目的の下に補充的意義を有する報告義務違反の罪責を云々する理由は既に失われたものと解するのが正当である。旧道路交通取締法二四条に基く同法施行令六七条一項、二項も以上と同趣旨に解すべきで、現行道路交通法七二条において、特にこの点が改正されたと解すべき根拠は見出し難い。」「道路交通法一一九条一項一〇号の報告義務違反に対する罰則は、交通事故の場合、当該車両の運転者等が救護等の義務は履行したが、警察官に対する報告の措置をとらなかつた場合にのみ適用されるので、右の場合に限つてもその実効を失うものでなく、なお、この場合旧道路交通取締法では救護等の義務を怠つた者と同一の法定刑をもつてのぞんでいたが、それでは刑の均衡を失するとの考慮から後者よりも軽い法定刑をもつて処断することとしたのに過ぎないのであつて、この処罰規定が新設されたことは救護等の義務と報告義務とがそれぞれ独立の観点より規定され、ひき逃げの場合には両義務違反の罪が同時に成立すると解する根拠とはならないのである。」と判断し、「被告人は自己の運転する小型四輪貨物自動車により原判示第二のように業務上過失致死の交通事故を惹起し、被害者を傷害したことを知りながら同人を救護する等の措置を講ぜず、そのまま逃走したことが認められるので、前叙の理由により、被告人の右所為については道路交通法一一七条の罪が成立するのみで、更に同法一一九条一項一〇号の罪は成立することはないといわなければならない。」と判示し、「本件公訴事実中第二の『後段の自動車を運転して公訴事実第一の交通事故を起したにもかかわらず、交通事故発生の日時、場所等法令に定めた事項を警察に報告せず逃走し』たとの点は、さきに説明したとおり罪とならず、かつ他の公訴事実と併合罪の関係にあるとして起訴されたものと認められるから、刑訴法三三六条により無罪の言渡をする。」としたのである。

原判決の右判断の要旨は、道路交通法第七二条は緊急措置義務を何等並列的に規定したものでないとするに在り、立法の主旨を述べ、同条第一項の後段は補充的規定であること、同項後段の法定刑が同項前段の法定刑よりも軽いことを論拠としているのである。

二、しかしながら、右判断は、以下に叙述する如く、道路交通法(以下法という)第七二条第一項の解釈を誤り、同項前段のみを適用し同項後段はこれを適用しなかつた結果、前記高松高等裁判所および大阪高等裁判所の各判例と相反する判断をしたものである。すなわち

(一) 前掲高松高等裁判所の判例は、第一審有罪判決が累犯加重規定の適用を遺脱した違法を是正するため破棄自判し、第一審判決の認定した、救護義務違反と報告義務違反との双方に対し法第七二条第一項前段、後段、第一一七条、第一一九条第一項第一〇号を適用処断しているのであつて、いわゆる救護措置義務と報告義務の両者が並列的に成立することを認めたものである。

(二) 前掲昭和三四年の大阪高等裁判所の判例は、旧道路交通取締法(以下旧法という)施行令第六七条第二項の報告義務に関し、同報告義務が憲法に違反する旨の控訴趣意に対し、これを合憲とする判断を示すと同時に、原判決が、「令第六七条第一項所定の被害者を救護する措置を講じない罪」をも「処罰の対象としており、この点は所論の点にかかわりなく適法である」旨判示し、令第六七条第一項(救護措置義務)及び令第六七条第二項(報告義務)を適用処断した原判決を支持した判断を示しているものである。

(三) 前掲昭和三五年の大阪高等裁判所の判例は、旧法第二四条第一項に基く旧法施行令第六七条第一項及び第二項の解釈に関し、右第一項と第二項の二種類の義務が並列的に課せられるものではなく、第一項の義務違反罪を認めた上更に第二項の義務違反ありとして第二項を適用した原判決には法令違反の誤がある旨の主張に対し

「所論第一項の規定は、被害者の救護その他の緊急措置を命じ、第二項は事故の内容及び講じた緊急措置の報告を命じているのであつて、この異つた二個の義務は並列的に課せられているものと解すべく、これと見解を異にする所論は正当でないから賛同し難い。原判決が第一項及び第二項の規定を適用したのは相当であつて、法律の適用に誤ありとする論旨は理由がない」

と判示したものである。

以上三判例は、いずれも、法第七二条第一項、及び旧法施行令第六七条第一項、第二項の解釈に関し、いわゆる救護措置義務と報告義務とが並列的に適用されるとの判断を示しているのである。

三、1思うに、法第七二条第一項は、車両等の交通による人の死傷または物の損壊(以下「交通事故」という。)があつたときは、当該車両等の運転者その他の乗務員(以下「運転者」という。)は、

(一) 直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならないこと。

(二) 警察官が現場にいるときは、当該警察官に、当該交通事故が発生した日時および場所、当該交通事故における死傷者の数および負傷者の負傷の程度ならびに損壊した物およびその損壊の程度ならびに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならないこと。

(三) 警察官が現場にいないときは、直ちにもよりの警察署の警察官に右所定の事故を報告しなければならないこと。

を規定したものであつて、交通事故があつたときの措置として、当該車両等の運転者に対し右三つの義務を並列的に規定したものと解すべきである。

旧法第二四条第一項には、右の三者を包括したような規定があり、車両等の運転者の講ずべき必要な措置の内容は、同法施行令第六七条に譲られ、同法第二八条第一号に、第二四条第一項違反の罰則が設けられていた。このことから旧法令のもとでは、交通事故の場合に運転者が救護等の措置を講ぜず、かつ、警察官に報告しないでそのまま逃走したときは、救護措置義務違反および報告義務違反を包括した、旧法令第二四条第一項違反の一罪が成立すると解されたり、あるいは、旧法施行令第六七条第二項が「同項の措置を終えた場合において」と規定していたところから、一項の措置を講ずることなく逃走した場合には第二項の報告義務を負わずして第一項のみに違反する旧法第二四条第一項違反と観るべきであると解する説もあつたのである。

しかもなお、旧法第二四条、旧法施行令第六七条の解釈にあつても、それらの規定は、交通事故のあつた場合に、運転者等が講ずべき諸種の義務を規定し、その義務を履行すべき通常の順序に従つて、単に旧法施行令第六七条第一項と第二項とにわたつて並べ規定したに過ぎず、以上の義務は同時に発生するものであると観るのが正当であつて、このことは、前掲大阪高等裁判所の二判例に徴し、明らかなところである。

現行の道路交通法は、右の疑義を一掃し、併せて運転者の責任を重視するため、交通事故があつた場合における運転者のとるべき措置として、いわゆる救護措置義務と報告義務とを法第七二条第一項の前段、後段に並列的に規定して、いわゆる「ひき逃げ」の場合に、両義務違反の成立を明らかにするとともに、各義務違反は併合罪の関係にあることを明示したものである。

2 原判決は前記のとおり、「交通事故があつた際には何よりもまず被害者の救護等の措置を講ずることが急務であり、これを行うことがまた常識であるから警察官に対する報告義務を規定した道路交通法七二条一項後段でも右報告義務は前段の救護等の措置を尽した通常の場合を予定して『この場合において』発生するもの」と判示し、「運転者等に必要にして十分な救護等の措置をとらせることが主眼で、ただそのためには警察官が介入して適宜指示を与える必要があるとの見地から補充的に前記報告義務を定めたもの」と判断しているのである。

しかしながら、交通事故の場合に、法第七二条第一項の前段は、被害者の救護その他の緊急措置を命じているものでありこれと並んで同項の後段は、警察官に報告して一層完全な救護措置等を講ずることが可能になるようにし人命尊重を全うせしめているものであつて、常に警察官に対する報告義務が発生することを認めて規定したものであると解すべく、同項後段は、決して補充的な規定ではなく、交通事故があつた以上は、必ず報告義務が発生存在するものと解すべきである。この点、原判決も、警察官に先ず報告し、然る後に警察官の指示によつて救護等の措置を講ずることもあり得ることを判示しているのである。

なお、法第七二条第一項の後段にいう「この場合において」という文言について考えるに、これは旧法施行令第六七条第二項の「同項の措置を終えた場合において」という文言に相当するものということができるところ、右旧法施行令の文言によれば、第一項所定の救護措置義務を履行した場合に始めて第二項所定の報告義務が発生するかの如き疑を容れる余地を生ぜしめる虞があつたのであるが、法第七二条第一項後段の「この場合において」とは、同条項前段の「車両等の交通による人の死傷または物の損壊があつたとき」を受けるものであることは明らかであつて、換言すれば、同条第一項は、旧法施行令の文言を改め文意を緩和し、交通事故の場合の、車両等の運転者に対して課すべき並列的な義務を明確に規定したものと解すべきである。以上のことは、報告義務違反の罰則を規定した第一一九条第一項第一〇号のみだしと救護義務違反の罰則を規定した法第一一七条のみだしが等しく「交通事故の場合の措置」となつていることからも十分に窺われるところである。

3 原判決は、「道路交通法一一九条一項一〇号の報告義務違反に対する罰則」は「旧道路交通取締法では救護等の義務を怠つた者と同一の法定刑をもつてのぞんでいたが、それでは刑の均衡を失するとの考慮から後者よりも軽い法定刑を以て処断することとしたのに過ぎないのであつてこの処罰規定が新設されたことは救護等の義務と報告義務とがそれぞれ独立の観点より規定され、ひき逃げの場合には両義務違反の罪が同時に成時すると解する根拠とはならないのである。」と判断しているのである。

しかしながら、前記1、にも述べたとおり、すでに旧法の解釈にあつてすら、右両義務は同時に発生するものであると観るのが正当であつたのであり、現行の法第七二条第一項は、右の趣旨を一層明らかにしたものである。

すなわち報告義務のみを尽して救護等の措置義務に違反するときには、重い同法第一一七条所定の同法第七二条第一項前段の違反のみが成立し、また、救護等の措置義務のみを尽して報告義務に違反するときには、軽い同法第一一九条第一項第一〇号所定の同法第七二条第一項後段の違反のみが成立すると解することは、もとより当然であるとともに、両義務の孰れをも尽さなかつたときには、両義務違反が並列的に成立存在することも極めて当然というべきである。両義務違反の刑罰に軽重があることをもつて、両義務違反罪の同時成立を否定する根拠とはならない。

四、以上詳述したとおり、本件原判決が、報告義務違反に対する罰則は、救護等の義務を履行した後にはじめて問題にされるのであつて、未だ救護等の義務を履行しないうちは、報告義務違反に対する罰則は未だ適用されるに至らないものであるとの趣旨に判断したのは、道路交通法第七二条第一項の解釈を誤つた結果、前掲の大阪高等裁判所、高松高等裁判所の判例と相反する判断をした非違があり、判決に影響を及ぼすことが明らかである場合に該当すると認められるので、刑事訴訟法第四〇五条第三号後段、第四一〇条第一項により原判決の破棄を求めるため、茲に上告に及んだ次第である。

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